第5回 説明的でないものに出会うと感動的ですよね
大西 vs 山さん、芸術を熱く語る!

(西宮美術研究所にて2001年3月20日)
大西
言葉で考えるんだったら、
他にもっと色んな表現方法がある。
言葉で考えるとわかりやすいのよ、
説明は言葉だから。
 
右脳、左脳って考え方があるけど……、
人間って左脳的に言葉で考える部分と、
右脳で感覚的に考えている部分というのは、
きっとあると思う。
 
感覚面に訴えかけてくるものって案外少ない
のよね、絵画と音楽だけなんよ。
 
ところが、その絵画と音楽の殆どが、
説明的な表現方法しかとってない。
説明図としか言いようのない絵画だったり、
一定のリズムと一定の調整だけでやってる
音楽とか。
全部、説明的なのよね、だから浸透しやすい。

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山下
説明を聞いて、納得するみたいな。

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大西
そう、言葉的だから納得しやすい。
「あ!そう」と言いやすい。
説明がなかったら、「そう」とは言いにくい。
 
例えば、もう100年近く前に作られた
(正確には1913年)ストラヴィンスキーの
「春の祭典」の冒頭部分のメロディーなんて
「そう」とは言いにくいよね。(笑い)
リズムもなけりゃ、メロディーも何だか
わからない状況の中で、「そう」とは言いがたい。
「音楽なんだから、右脳でそのまま受け取
ってよ」と言われてる気がする。
 
そんなものって非常に少ない。
視覚の方も少ないんだけれども、
せっかく自分が、ものを言葉化しないで
眼で考えるんだから、
それを描きたいなと思っててね……。
それは、今言ったような理由で、
きっと受け入れられにくいだろうな。
 
しょうがないんかな……。

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山下
説明的でないものに出会うと……
感動的ですよね。(笑い)

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大西
一部の人間だけがね。(笑い)

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山下
有無を言わさぬって言うのか、
映画でも演劇でもあると思うんですよ。

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大西
そうそう。きっと我々は、映画でも芝居でも
小説でも「これ、いいよな」っていうのは、
その要素なんよ、きっと。

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山下
そうなんですよね、感じるというか……。

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大西
例えば、私の好きな映画に「髪結いの亭主」
ってのがあって、
まさに「この映画、面白いなあ」って思ったのは、
視覚的、感覚的な面なのよ。
 
主人公のおっちゃんが、指から踊り始める。
わけのわからない踊り。
その扱い方なんかそうなのよ、
説明的ではないのよ。
 
ところが、その映画に感動したって人と話を
してみると、「あの女の気持が」とか言われて、
はじめて「えー?」と思ったことがあって。
あ、全然違うところ見てる、と。
 
「女の気持」って言われて、
この人は何の話をしてるのかと思って、
一生懸命思い出すと、
そう言えばそんな見方もできるのかって、
本当にびっくりしたぐらいでね。
世間はこっちなんだろーな。

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山下
動作とか、仕草とか見てしまいますね。

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大西
何年か前に、維新派の「水街」を見たときに、
よかったと思ったのは、形とか動きだけで、
訴える部分があったからなんよ、
説明的な要素が少なかったからなんだろうな。
 
新劇を見る気がしないのは、
説明ばっかりだからね、失礼かもしれないけど。
説明する要素が多いからね。

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山下
音楽なんかはどうなんですか、楽譜があって、
昔のものを演奏するというのは。

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大西
なかなか……。
写実がわかってもらえないのと似てて、
演奏芸術はわかってもらいにくいというか……。
 
私自身がヴィヴァルディとか演奏しても……、
何と言うか、楽譜を再現しているのではなくて、
「音に変えようとしてる」ところがある。
だけど、音に変えているのか、
楽譜を演奏してるのかは、わかりにくい。(笑い)

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山下
「わからない」ですよね。

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大西
音楽家で、私が最もすばらしいと感じてた、
武満徹さんって人は……、それをやろうと
したんだろうなーとずっと思ってて……。

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山下
音を……。

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大西
音そのものを、感じてもらおうとしてた……。
楽譜は非常にわかりにくいのよね、
演奏しにくい。
わざと演奏しにくいものにしてあって、
「演奏しました」って匂いがしないように、
できてるっていうのかな。
 
「その音が存在した」みたいに聴こえるよう
に書いてあって。
別に工夫して書いている、というんじゃなくて、
「そんな音が聞きたかったから」書いた
ってだけだって感じがするんだけど。

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